電動キックボードは、次世代のモビリティ(移動手段)として世界で急速に普及が進んでいます。走行時にガソリン車のような有害物質を排出せず、駐輪に必要なスペースが自転車よりも小さいこともあって、今後は日本でも法整備の進展と共に本格的に普及すると見られています。
ここでは電動キックボードの特徴や普及の背景、電動キックボードを選ぶポイントを解説します。
目次
電動キックボードとは
電動キックボードとは、モーターとバッテリーが搭載されたキックボード(車輪付きの板)のことです。電動式のため走行にガソリンは不要であり、自転車よりも小型のため小回りがききやすいです。基本操作は、最初に地面をキックして始動させた後、足元のアクセルを踏んで加速。減速や停止はハンドルブレーキで行います。
電動キックボードは現在、一般向けの二輪車タイプ(最高時速20km/h程度)と、「電動シニアボード」とも呼ばれるシニア層向けの3輪・4輪車タイプ(最高時速15km/h程度)があります。若者からシニアまで、広い年齢層のユーザーが利用できます。
日本の法令における電動キックボード
2022年3月現在、電動キックボードは道路交通法で「原動機付自転車」に区分されるため、公道を走る時は、以下をおこなう必要があります。
・バックミラー、ウインカー、フロント・バックライトなど保安装置の装備
・ナンバープレートの取得と車体装着
・ヘルメット着用
・原動機付自転車運転免許の取得と免許証携帯 ……等
ただし2022年3月現在では、電動キックボードに関する規制緩和が検討されていることもあり、必ず最新のルールを確認した上で乗るようにしましょう。
参考:電動キックボードについて | 警視庁関連ページ:電動キックボードで公道を走行するには?
電動キックボード利用のメリット
次世代モビリティとしての評価が世界的に高まっている電動キックボードを利用するメリットとして、一般に次が挙げられます。
(1)利便性が高く操作も容易な次世代のモビリティ
電動キックボードは自転車より小型なので、駐輪スペースの確保が容易です。また折り畳み式の電動キックボードなら、ルールを守れば電車やバスへの持ち込みも可能です。自走式なので自転車のようにペダルを漕ぐ必要もなく、乗り疲れが起きにくくなっています。速度が適度(時速15~20km程度)で走行時の騒音もほとんどないこともあり、海浜や湖畔の公園、観光地、街走り、買い物など様々な場面で便利です。
(2)ストレスのない充電
電気自動車や電動バイクの場合、バッテリーに充電する時は充電スポットを利用する必要があります。また自宅で充電するためには、専用の充電器と充電ケーブル設置する必要があります。対して電動キックボードの場合、自宅内のコンセントでバッテリーに充電できます。充電時間も5~6時間程度なので、充電の手間と時間にストレスを感じることはないでしょう。
(3)小型のため持ち歩きがしやすく、自宅では宅内保管ができる
電動キックボードは自転車と比べても小さいので、自動車のトランクに簡単に積み込むことができます。したがって旅行時にトランクへと積み込んでおけば、旅先で回遊する際の便利なモビリティになります。列車や長距離バスで旅行する時も「輪行袋」に入れれば車内持込みが可能です。また自宅でも、玄関や廊下の片隅、ベランダ、クローゼットなどに置けるため、盗難の恐れがある屋外保管も不要です。
電動キックボードの用途
主な電動キックボードの用途がこちらです。「規制緩和が進めば、新たな需要や用途も広がるのではないか」との見方もあり、今後に注目が集まっています。
・自転車に替わる近距離の通勤手段
・レジャー施設や工場、建設現場等広域私有地での移動手段
・許可を受けた海浜や湖畔等にある公園内の移動手段
世界の電動キックボード市場の規模
2021年7月27日にREPORT OCEANが発表した「電動キックスクーター市場:バッテリータイプと電圧別。グローバルな機会分析と業界予測、2021-2028年」によると、電動キックボードの世界市場規模は2020年に21億ドル(2415億円/1米ドルː115円換算)。2021年から2028年までの年平均成長率が12.2%となり、2028年に45億2000万ドル(5兆1980億円/1米ドルː115円換算)に達するとの予測になっています。
同レポートの分析によると、市場成長率が最も高いのは欧州、次いでアジア・太平洋地域、北米などとなっています。欧州の市場成長率が高いのは、欧州の各国政府が厳しいCO2排出規制を行っているからです。これがEV(電気自動車)はもとより電動バイク・電動スクーターの需要を高めており、電動キックボードが近距離の移動手段として重視されているからとしています。
また同レポートは、電動キックボードの人気が高い理由として「自転車よりサイズが小さいので交通渋滞の解消に役立ち、しかも1km当たりの走行コストが原動機付自転車の25%程度と言うコストパフォーマンスの高さが魅力になっている。これが都市部での新しい通勤手段として認識されている」とも分析しています。
国内の電動キックボード市場動向
日本では電動キックボードの普及推進を目的に2019年5月、国内電動キックボード事業関連5社により「マイクロモビリティ推進協議会」が設立されました。
同協議会は、以下のような活動目標を掲げ、活動を行っています。結果、現在では国内キックボード事業関連会社の会員数も増え、日本における電動キックボード普及の旗振り役的存在になっています。
・電動キックボード普及における自主規制体制の構築
・電動キックボードの安全運転指導のガイドライン策定と周知
・電動キックボードの公道走行実証実験事業推進
・電動キックボード普及に向けた国への政策提言
2021年4月からは東京の渋谷区や新宿区など7区、千葉県の中央区と美浜区において、同年10月からは横浜市の「みなとみらい21地区」において二電動キックボードシェアリングサービスの実証試験が行われています。
また警視庁は、産業競争力強化法に基づく「電動キックボードに関する特例措置」を受け、2021年4月から千代田区を始めとする東京22市区において、自転車専用通行帯における電動キックボードの公道走行実証試験を行っています。
現在行われている様々な実証試験の結果は、今後の電動キックボード市場に影響を与える可能性が大いにあり、注目が集まっています。
電動キックボードを選ぶポイント
電動キックボードは現在、国内で様々なモデルが発売されており、購入の際はその選択に悩むユーザーが多いと言われています。そこで自分に適した電動キックボードを選ぶ基準として、次が挙げられます。
速度
通勤、買物などの地点間移動をスムーズに済ませたい場合は、速度が重要になります。この場合は、「タイヤの大きさ」や「タイヤの種類」などが選択のポイントになります。高速かつ安全に走行するためには最低145mmのタイヤが必要で、できれば205mmの大きさが欲しいところです。タイヤが大きい方が段差や路面の凹凸で引っかかりにくいので、減速回数を減らせるからです。
タイヤは「硬質ゴムタイヤ」と、ゴムタイヤの中に空気が入っている「エアタイヤ」の2種類があります。前者は速度性に優れ、後者は衝撃吸収力に優れているので走行の安定性を保てます。
安定・安全性
快適な走行の基になる「安定・安全性」を重視する場合は、「エアタイヤ とサスペンション」や「掴みやすいハンドルグリップ」や「幅広で長いボード (足を載せる部分)」などが選択のポイントになります。
エアタイヤ とサスペンションは段差や路面の凹凸を通過する際の衝撃を吸収し、安定した走行と速度を可能にします。両手にフィットして掴みやすいハンドルグリップは、運転の安定性を高めます。また幅広で前輪と後輪の間隔が長いボードは走行時の安定性を高めます。
持ち運び易さ
主に旅先、海浜や湖畔の公園、観光地などで使う場合は、持ち運び易さが重要になります。この場合は、「車体のサイズと重量」「折り畳み方式」などが選択のポイントになります。電動キックボードの軽量モデルは4kg台ですが、重くて大きいバッテリーを搭載して走行距離が長いハイパワーの重量モデルは30~40kgの重量があります。持ち運び易さを重視する場合は、重量チェックが不可欠です。
また折り畳み方式もレバーのみで折り畳む、ロックレバーとトリガーで折り畳むなど様々な方式があり、方式ごとに折り畳みの手間と時間が異なります。したがって持ち運び易さを重視する場合は、手間暇をかけず簡単に折り畳める方式を採用したモデルか否かのチェックも必要でしょう。
メーカー
電動キックボードは現在、国内外様々なベンダが発売しており、価格も1万円台から10万円以上まで様々です。販売チャネルも家電量販店、ネット通販、自転車専門店と多彩です。こうした中で購入の際に注意したいのが安価な輸入品です。
安価な輸入品は、「車体、動力、保安装置などの品質が低く、壊れやすい」「車輪が細く小さい、サスペンションがないため、路面の凹凸や坂道が多い日本の道路では乗りにくい」などのケースが少なくありません。また保障対応が行われていない場合、フロントライトを始めとする保安装置が故障・毀損した場合は修理に手間と時間がかかり、結局は長く乗るのが難しい可能性があります。
電動キックボードを購入する際は、信頼できる業者かどうかをしっかり確認しましょう。また製品保証や仕様についても購入前確認をおすすめします。
まとめ
海外の複数の大手シンクタンクの調査によれば、電動キックボードは世界市場規模で2025年に自動車、バス、バイクを含めた全モビリティの15%を占めるとの推計です。このため電動キックボードは自宅から遠く離れた駅やバス停、スーパーマット・ショッピングモール、医療施設などへの移動やラストワンマイルの移動を楽にし、人の移動範囲拡大を容易にします。さらにMaaS(※)を構成するモビリティの役割も期待されています。日本国内でのスムーズな普及が待望されているゆえんとも言えるでしょう。
※MaaS(マース)ː「Mobility as a Service」の略。電車・バス・タクシー等既存の交通手段・サービスと自動運転、AIなどの様々な先端テクノロジーを組み合わせた次世代交通サービス。