電動キックボードは道路交通法で「原動機付自転車」に区分されています。このため電動キックボードで公道を走る場合は、原動機付自転車の免許取得と免許証携帯、ヘルメット着用、フロント・バックライトを始めとする保安装備搭載などが義務付けられています。しかし2022年3月4日の道路交通法改正の閣議決定により、近い将来電動キックボードの規制が緩和され、原動機付自転車の免許を取得しなくても公道を自由に走れる見通しです。そうなると、我が国でも電動キックボードの普及に弾みがつくと見られています。
ここでは電動キックボードで公道を走行する際の現在の交通ルールと、規制緩和の意義を解説します。
電動キックボードで公道を走行するための条件
電動キックボードで公道を走行する場合は、道路交通法で「原動機付自転車」の適用を受け、道路運送車両法の保安基準を満たしている必要があります。そして道路交通法と道路運送車両法に違反した状態で公道を走行すると、懲役刑を含む罰則が科せられます。
電動キックボードで公道を走行するために準備すべきこと
電動キックボードで公道を走る際は、事前に次の準備をしておく必要があります。
(1)保安装備の搭載
公道を走る際にまずクリアしなければならないのが、道路運送車両法の保安基準です。このため、
・フロント・バックライト
・バックミラー
・ウインカー
・前輪・後輪のブレーキ
・警音器
などの保安装備を電動キックボードに搭載する必要があります。
これらの装備を搭載せずに公道を走ると「整備不良車両運転」として3ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。それ以前に、保安装備は自分の身を守るための必需品です。搭載は常識と言えるでしょう。
(2)運転免許の取得と自動車保険加入
電動キックボードで公道を走る時は、原動機付自転車の免許取得と免許証携帯、ヘルメット着用、自賠責保険加入、車体へのナンバープレート装着などが必要です。
- 原動機付自転車の免許取得と免許証携帯、ヘルメット着用
電動キックボードで公道を走る時は、原動機付自転車の免許取得と免許証携帯が必要になります。もし、免許証不携帯で運転した場合は「免許証不携帯」となり、無免許で運転した場合は「無免許運転」となります。そして前者の場合は3000円の反則金、後者の場合は3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
またヘルメット着用も義務となっており、いわゆる「ノーヘル」で運転した場合は道路交通法の違反点数として1点が科されます。ヘルメットも交通違反云々以前に、自分の身を守るための必需品です。着用は当然と言えるでしょう。
- 車体へのナンバープレート装着
公道を走る電動キックボードは軽自動車税(区市町村税)の対象になります。このため居住地の区市町村に自動車税を納付し、交付されたナンバープレートを車体に装着しなければ公道を走ることはできません。
- 電動キックボード自動車保険
電動キックボードで公道を走るには自動車保険加入が必要です。これには次の2種類があります。
■自賠責保険
加入が義務付けられている強制保険です。
これは事故を起こした際に、被害者の損害を補償するための保険で、原動機付自転車を含むすべての自動車は、自動車損害賠償保障法に基づき、自賠責保険(共済保険)の加入が義務付けられています。
もし未加入で事故を起こした場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科され、さらに免許停止の行政処分を受けます。
■任意保険
事故を起こした際、自賠責保険で損害補償をカバーできない金額を支払うための保険です。
自賠責保険では、例えば被害者死亡は3000万円、後遺障害は4000万円、障害だけなら120万円の制限があります。自賠責の制限額を超えた保障は加害者の自己責任になります。それに備えて加入を推奨されているのが任意保険です。
電動キックボードで公道を走行する時の交通ルール
電動キックボードで公道を走る時は、原動機付自転車と同一の交通ルールが適用されます。
原動機付自転車の交通ルールは自動車やバイクと基本的に同じですが、原動機付自転車特有のルールとして、次が挙げられます。
・法定速度は時速30km……道路の制限速度が30km以上でも原動機付自転車は時速30km以下で走行しなければならない
・第一通行帯通行義務……片側二車線以上の道路の第一通行帯(一番左の車線)の左側を走行しなければならない
・二段階右折義務……信号のある片側三車線以上の交差点で右折する際は、道路の第一通行帯を直進して渡り、渡った先で方向を右に変え、正面の信号が青になってから直進しなければならない。また片側二車線以下の交差点でも、二段階右折の標識がある場合は標識に従わなくてはならない
この他、
・二人乗り禁止
・自転車専用通行帯の走行禁止
・歩道に乗り入れる場合はモーターを切り、手押しする
電動キックボード運転者自らの交通事故被害を防ぐためにも、交通ルール順守は大切と言えます。
電動キックボードの普及に向けた規制緩和のこれまでの動き
2019年5月の「マイクロモビリティ推進協議会」設立以降、電動キックボードの普及に向けた規制緩和の動きが活発になりました。
この中で象徴的な動きが、「産業競争力強化法」に基づき経済産業省が実施している「新事業特例制度」の認定により、特例措置適用を受けた電動キックボードの公道走行実証実験と言えます。
この実証実験は、
・道路交通法における区分:小型特殊車両(道路運送車両法上は、現行法と同様「原動機付自転車」の扱い)
・速度制限:最高時速15km
・走行場所:車道と自転車専用通行帯および自転車道と「一方通行だが自転車が双方向通行可とされている車道」
・走行時の交通ルール:ヘルメットの着用は任意(安全の観点から着用を推奨)
・走行時の義務ː原動機付自転車の運転免許証携帯と自賠責保険加入
・車体要件:ナンバープレート装着、フロント・バックライト、バックミラー、ウインカー等原動機付自転車と同一の保安装備搭載
などの特例措置適用の下、2021年4月から逐次認定の形でスタートし、現在は全国主要都市で実施されています。さらに同措置適用の下、電動キックボードのシェアリングサービスの実証実験も行われています。
道路交通法改正の閣議決定で、電動キックボードの規制緩和が本格化
2022年3月4日、道路交通法改正が閣議決定されました。
閣議決定された改正案は自動運転、自動配送ロボット、電動キックボードなどの公道走行の法整備と規制緩和が目的で、改正案は今国会に提出され、法案が成立すれば、電動キックボードについては公布から2年以内に施行の見通しです。法改正による電動キックボードの緩和については、2021年4月から全国主要都市で実施されてきた実証実験の結果を踏まえたものと言われています。
そこで法案が成立すれば、公道走行における電動キックボードの主な要件は、
・最高時速が自転車と同程度の20km以下で走行する電動キックボードを、新設の「特定小型原動機付自転車」に分類。原動機付自転車の運転免許取得は不要。ただしナンバープレートの装着と自賠責保険加入は義務
・交通ルールは自転車と同一のルールを適用。ただし16歳未満の運転は禁止
・走行は原則車道。ただし自転車専用通行帯と歩道(時速6km未満に限る)の走行も可能
・電動キックボードの販売店とシェアリングサービス事業者は、ユーザに対する交通安全教育の努力義務を負う
・交通反則切符や放置違反金制度の対象とし、悪質な違反行為を繰り返す運転者には交通安全講習受講を命じ、命令違反には罰則を科す
などになる見込みです。
まとめ
道路交通法改正により、電動キックボード向けの車両区分が新設されることは、交通における電動キックボードの社会的位置付けが明確化されることを意味しています。
このことは、電動キックボードが、
・大都市部における満員電車や交通渋滞の緩和に資する通勤手段
・自動車やバイクの運転免許証を返納した高齢者の新しいモビリティ
・公共交通機関が少ない、あるいは皆無に近い山間地域の交通インフラ
などになる可能性を示しています。
また道路交通法の規制緩和により電動キックボードの普及が進めば、今よりも安全性と性能が高いモデルが開発され、電動キックボードの用途も拡大するでしょう。さらにAIの活用により自動運転技術と自動配送ロボット技術を組み合わせた電動キックボードが開発され、宅配貨物やデリバリー料理の受取りの利便性が高まる可能性もあると見られています。
したがって電動キックボードは、単なる次世代モビリティとしての移動の利便性だけではなく、配送や交通インフラの高度化に資する可能性も秘めているようです。