今や我々の生活や産業を取り巻く電磁環境を整える上で欠かせない技術のひとつとなっています。
EMC対策とは?
EMC(Electromagnetic Compatibility)対策とは、電磁干渉(EMI)と電磁耐性(EMS)を含む、電子機器やシステムが互いに干渉しないようにするための技術です。これにより、機器が正常に動作し、安全性や信頼性が確保されます。
電磁干渉(EMI)とは?
電磁干渉は、ある電子機器が放射する電磁波が、他の電子機器に悪影響を及ぼす現象です。これにより、機器が正常に動作しなくなったり、データが破損したりすることがあります。
電磁耐性(EMS)とは?
電磁耐性は、電子機器が外部からの電磁干渉に対してどれだけ耐性があるかを示す指標です。高い電磁耐性を持つ機器は、電磁干渉があっても正常に動作し続けることができます。
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電磁環境とは?
電磁環境とは、ある場所において、電磁波の発生源や受信機、伝送路などがどのように存在し、どのような影響を及ぼしているかを示す状況のことです。電磁環境が良好であれば、電子機器は正常に動作し、人々の生活や産業活動に支障をきたさないことが期待できます。電子機器の安全性等を確保するためにも、電磁環境の点検は欠かさずに行う必要があります。
EMC対策の方法
EMC対策には、以下のような方法があります。
(1) 電源ラインフィルターの使用
(2) ケーブルのシールディング
(3) 適切な接地方法の選択
(4) 電子機器の設計段階での対策
(5) 電磁波吸収材の利用
(6) 電磁波遮蔽材の使用
(7) 電磁干渉源と受信機の距離を適切に設定する
(8) 電磁干渉を低減する部品の選択
(9) 高周波対策と低周波対策の両立
それぞれの対策内容について軽く見ていきましょう。
(1) 電源ラインフィルターの使用
電源ラインフィルターは、機器に供給される電力から雑音成分を取り除くための装置です。電源からのノイズが電子機器に悪影響を及ぼさないようにすることで、EMC対策に効果を発揮します。電源ラインフィルターには、単相用や三相用など用途に応じた種類があります。
(2) ケーブルのシールディング
ケーブルのシールディングは、電磁波の侵入や放射を防ぐために、ケーブル周囲に金属フィルムや網状のシールド材を巻く方法です。これにより、ケーブルからの電磁波の漏れが防がれ、他の機器への影響も最小限に抑えられます。
(3) 適切な接地方法の選択
接地は、電子機器のシャーシやケースを地面に接続することで、過剰な電流や電磁ノイズを排除する方法です。適切な接地方法を選択することで、電磁干渉を低減し、機器の安全性を向上させます。接地方法には、一点接地や多点接地などがあり、機器の性能や環境に応じて選択が必要です。
(4) 電子機器の設計段階での対策
電子機器の設計段階でEMC対策を考慮することは、後から問題が発生した際の対策コストを削減するために重要です。回路設計やレイアウトの最適化、部品選定など、設計段階から検討することで、電磁干渉を低減し、機器の信頼性を向上させることができます。
(5) 電磁波吸収材の利用
電磁波吸収材は、電磁波を吸収し、エネルギーに変換する材料です。これにより、電磁波の反射や放射が抑制され、電磁干渉が低減されます。機器内部やケースの表面に貼り付けたり、ケーブルやコネクタに巻き付けることで、効果的に電磁波を吸収し、EMC対策を実現します。電磁波吸収材には、磁性体やカーボン系材料などさまざまな種類があり、用途や周波数に応じて選択が必要です。
(6) 電磁波遮蔽材の使用
電磁波遮蔽材は、電磁波の透過や反射を防ぐために使用される金属や導電性ポリマーなどの材料です。これらの材料を機器のケースや壁、床などに配置することで、電磁波の侵入や漏れを防ぎ、EMC対策に効果を発揮します。
(7) 電磁干渉源と受信機の距離を適切に設定する
電磁干渉源と受信機の距離を適切に設定することで、電磁波の影響を低減することができます。一般的に、距離が離れるほど電磁波の強度は減少します。また、電磁干渉源と受信機の向きも影響を受けるため、配置を工夫することで効果的なEMC対策が可能です。
(8) 電磁干渉を低減する部品の選択
電子部品の選択も、EMC対策に重要な要素です。低ノイズ特性の部品や、高周波特性の良い部品を選ぶことで、電磁干渉の発生を抑えることができます。また、部品の配置や接続方法にも注意を払い、電磁干渉の影響を最小限に抑える工夫が必要です。
(9) 高周波対策と低周波対策の両立
電磁波には、高周波数帯と低周波数帯のものがあります。EMC対策を行う際には、これらの両方に対応することが重要です。高周波対策では、シールディングやフィルタリング、電磁波吸収材の適用が効果的です。一方、低周波対策では、適切な接地方法や磁界シールディング材の利用が求められます。機器の特性や周囲の環境に応じて、最適な対策を組み合わせることで、高周波と低周波の両方に対するEMC対策が実現できます。
以上のように、EMC対策は多岐にわたり、様々な方法が存在します。これらの対策を適切に組み合わせることで、電磁干渉の影響を最小限に抑え、電子機器の性能や信頼性を向上させることができます。機器の設計段階からEMC対策を検討し、適切な部品選定や配置、接地方法などを取り入れることが重要です。また、市場のニーズや規制に応じて、高周波対策と低周波対策の両方を実施し、幅広い電磁環境に対応できる機器を開発することが求められます。
EMC対策の実践
EMC対策は製品開発の初期段階から検討されることが重要です。設計や試作の段階で適切な対策が取られていれば、最終的な製品の品質や信頼性が向上し、市場での競争力も高まります。
また、EMC対策を実施する際には、国際基準や規制にも留意する必要があります。これらの基準や規制は、製品が安全で信頼性が高いことを保証するためのものであり、国際市場での取引においては必須の要件となっています。
EMC対策の重要性
近年、IoT(Internet of Things)デバイスや自動運転車など、電子機器の利用が急速に拡大しています。これに伴い、電磁干渉が発生しやすい状況が増えており、EMC対策の重要性がますます高まっています。正確な動作が求められる機器においては、EMC対策が不可欠であり、機器の信頼性や安全性を確保する上で大きな役割を果たしています。
おわりに
EMC対策は電子機器の正常な動作や信頼性を確保するために必要な技術です。IoTデバイスや自動運転車などの普及に伴い、電磁干渉が増える中で、適切な対策を講じることが重要です。本記事では、EMC対策の基本的な概念から、具体的な方法までを紹介しました。今後も電磁環境に配慮した製品開発が求められるでしょう。